初めてのロンドン・ヒースロー空港
2017年9月。少し暗くなり始めたロンドン・ヒースロー空港のターミナル5にひとりで降りたった私は、いきなり途方に暮れていました。
世界でもかなり厳しい水準といわれている入国審査を無事に通り、地下鉄駅でOyster Card(日本でいうSUICAやPASMO)を購入し、その日泊まるロンドン市内のホテルまで移動してチェックインする。 初日の私のミッションはこれだけです。
Oyser Cardが売り切れ?!
ところが「Sightseeing!」の連発と日本人お得意のオリエンタルスマイルで入国審査を突破し、地下鉄駅にたどり着き、券売機の前に立つと…なんと全マシン Oyster Cardが売り切れ!(多分)今到着したばかりと思われる家族連れも困ってウロウロしています。駅なのに売り切れって何?無いわー、本当に無いわーと思いましたが、他にマシンも見当たりません。英語が話せないので誰かに聞くのは最終手段です。
ほかに買うところは?キヨスク的なお店でも買えると読んだような?でも近くにお店も見当たらず。空港まで戻る?やっぱりこの券売機で何とかならないかな?と、恐らく5分ぐらい逡巡していたでしょうか。(体感的には15分ぐらいに感じられましたが)
救いの神降臨
するとそこにダークスーツを着たビジネスマンが颯爽と登場したのです。気が付いたら急に目の前に。「これ、今日の地下鉄一日券。僕はもう使わないから君にあげるよ。今日一日しか使えないよ。それじゃ!(英語)」的なことを早口で言って(多分)、「さ、さ、さんきゅー!」という言葉に、映画のように後姿で片手を挙げて応え、その人は早足で空港の方に去って行ったのでした。
何を言っていたのかよく分かりませんでしたが、とにかくその日の日付のone day ticketをくれた*ので、概ね上記のようなことを言っていたに違いありません。黒い髪がクルクルしていてスマートで小柄で、どちら様か分からないけどカッコいい!もしかして亡くなったおじいちゃんか誰かが化けて出てくれたのかもしれません。
*もちろんこれはキセルの一種です。本来やってはいけない事ですが、追い詰められていた心情をお察しください。
とにかくあなたは神だ!もしくは神が私に遣わした何かだ!今日はこれをありがたく使わせてもらってホテルまで行き、そして明日ホテル近くの駅でOyster Cardを買おう。ロンドンは良いところだ、みんな良い人だ(単細胞)。脳内にサイケなお花畑が広がりつつ、私は地下鉄に乗ってホテルに向かったのでした。
常識知らず
そして、このOyster Cardに端を発して明らかになった問題が、この初めての英国ひとり旅の間ずっと付きまとう事になることを、この時の私は知る由もないのです。無知というのは本当に恐ろしい。後になって振り返ってみると、自宅を出た時点でこの旅は私の「負け」でした。致命的なミスを犯し、それに気づかぬままイギリス入りしていたのです。
例えるなら「ええっ?!国際線の飛行機に乗り込む時に靴を脱がなきゃならないって話はウソだったのかい?(マスオさんの声)」 レベルの話です。 誰もそんなことを航空会社に問い合わせしてわざわざ確認したりしません。大概の人はそんなのウソだって知ってます。私以外は。
私は非常に心配性で、しかも英語が話せず、初めての海外ひとり旅、初めてのイギリスということで、事前の情報収集はそれなりにしていたつもりでした。イギリスに詳しかったり、海外ライブに慣れているフォロワーさんに、SNSを通じて多くのアドバイスもいただいていました。しかしどれほどネットで情報を下調べしていても、現地に行かなければ分からないことが当然ながら、相当沢山あります。
それに日本での「常識」についても、全て網羅しているかというと、やっぱりそうではないのです。私は日常の99%は半径5キロ圏内で過ごしているので、仕方がないのです。人間力が圧倒的に足りてない。わざわざ9,000キロも離れたところまでひとりで旅をして、一番身近であるはずのダメな自分を再発見して帰ってくるという情けないお話です。そういうのは出来れば自宅周辺で発見しておきたい。自宅周辺が無理ならせめて国内で。
という訳で、私の旅には、旅慣れた方から見るときっと鼻で笑ってしまうようなことが沢山起こります。そういう方には笑って欲しいですし、そうでない方には笑いながら(読んでおいて良かった・・・)と心の中でこっそり思っていただければ幸いです。