インポッシブルなミッションを受けてChesterで野宿しそうになった話


3度目のイギリスは本当にひとり

2018年11月の旅のめあてはアコースティックツアー。3度目のイギリスです。実はそれまで2度のイギリス旅では、1会場を除く全てのライブ会場で別の日本人ファンの方とご一緒させていただいており、いざとなったら百戦錬磨のその方が居る という事が、ずっと私の心の支えになっていました。 世の中には日常的にイギリスまでライブを見に行く人もたくさんいるのです…。すごいなぁ。

しかし3回目のイギリス旅、心の支えのその方は行かないという事だったので、ついに完全に私ひとりで旅する事になったのです。

今回私がライブチケットを取ったのは 4日間連続の4会場。今までになく長距離・広範囲の移動で、中にかなり小さな街が一ヶ所混ざっているという、私にとってはかなり難易度の高い旅です。


もしもこの旅でどんな事が待ち受けているか事前に分かっていたら、もしかしたら私はこの旅を諦めていたかもしれません。私としてはそれぐらい大変な旅になりましたが、それは同時に人生最高レベルにエキサイティングで楽しく、心に残る旅でもありました。

自分がまだ本気で困る事が出来て、それを笑っちゃう事が出来るというのは、とても楽しい発見です。 皆さんは最近本気で困った体験、ありますか?私はあります!今回のChesterの初日はその中のひとつです。


英語とひもじさとキッチン

そもそもどうしてこれから書くような事態が起こってしまったのか、改めて考えてみると、問題の本質はやはり英語が話せない、話したくないということに立ち戻ります。

1)現地の人と英語でやり取りするのが怖くて、ひとりで飲食店に入れない。
2)イギリスのスーパーには温めれば食べられる美味しそうなスープやパイが沢山売ってる。(スーパーも怖いけど飲食店よりマシ)
3)電子レンジか、簡単なキッチンが付いている宿に泊まりたい!

そういう流れだった訳です。日本同様、イギリスにもキッチンつきタイプの宿がそこそこあります。私の数少ない経験では、地方では2ベッドルームにフルサイズのキッチンなどファミリー向けの所が多いようです。逆に大都市ではコンパクトな部屋に、最低限のミニキッチンを備えた出張者向け?のところばかりでした。


実は2018年2月の2度目のイギリス旅の際、Bristolでキッチンつきのアパートメントタイプの宿を使ったことがありました。その時は街に到着したら管理事務所に連絡をしてスタッフと待ち合わせ、鍵を受け取り、部屋まで案内してもらうという手順でした。

その時、宿に立派なキッチンが付いていたおかげで、スーパーで野菜とベーコンを買って野菜スープを作って食べることができたという良い思い出がありました。連日の移動と時差ボケと緊張に晒された身には、そういう食事がとっても嬉しい。

そんな経緯もあり、2018年11月の旅では、可能な限りキッチンつきの部屋をチョイスしていたのです。


難しすぎるミッション

この旅では15時半ごろロンドン・ヒースロー空港に到着し、その日のうちにイングランド北部の街、Chesterに入る計画を立てていました。ライブ前の数日、観光する予定です。どうしてChesterへ?それは私が好きなあのミュージシャンの故郷だからです!

Chesterの宿の管理事務所からは1週間ほど前にメールが入り、宿泊日当日に鍵の受け渡しなど詳細のメールを送るという連絡を受けていました。ギリギリすぎるので心配していたのですが、ヒースロー空港に着いてスマホをネットに繋いでみると、メールが来ていることが分かり、ホッと一安心。


ところがこの日はいつにも増してヒースロー空港が混雑しており、ロンドンのEuston駅をChesterに向けて出発した時には、既に19時を過ぎていました。


ヒースローを出た時には良い夕暮れでした。呑気に写真撮ってる場合じゃなかったんですが、写真を撮らなかったからといって何か良いことがあったであろう訳もなく。

鉄道内もとても混み合っていて、賑やかな若者たちと一緒にデッキで立ちっ放しでしたが、道のりはせいぜい2時間半。


Chesterに向かう鉄道内からストーリーにアップしたウキウキのヒャッハー動画。

そんなに長くないしいいか~と思いながら、イヤホンで音楽を聞きつつ、その日の宿の詳細が書かれたメールを改めて確認してみました。ざっくり要約すると、

『22時までに〇×というコンビニエンスストアに行き、レジにいる男性にあなたの名前を告げてください。彼からアパートの鍵とエントランスの電子キーが渡されます。その後〇×ストリートに行き、電子キーでエントランスの門を開けたら右、そこにある扉を電子キーで開けてリフトで2nd Floorにあがるとあなたの部屋があります


本邦初公開、これがMI6(仮)からのメールだ!改めて見てみると、もしかしてネイティブじゃ無い人が書いた?

これは何だろう?テープレコーダーが回りきったところで最後に「幸運を祈る」って言われて爆発するやつかな?イギリスだけに?

チェックインが22時までというのは事前に知っていましたし、恐らく今乗っている鉄道がChester駅に到着するのは21時すぎ。Google Mapで確認すると、Chester駅からコンビニエンスストアまでは徒歩10分程度。よほど道に迷わない限り鍵を受け取るところまでは問題ないでしょう。


Chester到着、鍵をゲットしたところまでは良かったが…

鉄道が到着したChesterの駅は当然もう真っ暗。11月のイギリスは寒いぞ!

それまでイングランド南部から中部までしか行ったことがなかったので、初めての北部の町、しかも好きなミュージシャンの故郷、そしてかつて彼のバンドが結成されたこの街に来ることが出来て感無量です。ロンドンから2時間半なので、北海道で生まれ育った私としては大した距離ではないのですが、なんだか遠くまで来たな~という感覚。

Chesterは英国の中でも特に中世の面影を残した城壁都市として人気の観光地だそうです。英国はどこに行っても歴史ある街ばかりで、旅してても楽しいんですよね。


ついに憧れの聖地Chesterへ!

さて、私は早速指示されたコンビニエンスストアを探さなければなりません。駅を出て繁華街を横目で見ながら街の中心部からは少しだけそれた、繁華街の外れの方角に歩きます。パブとケバブ屋さんはまだ営業中。その先に、あった!目指すコンビニエンスストア。

そこは小さな個人商店のようで、パッとしないサンドウィッチや飲み物、雑誌、洗剤などが青暗い照明の店内に雑然と置かれています。映画みたいだなぁ。

Pod Noodleとチョコレートとビールを買い、ひとつしかないレジで「女性に」名前を伝えました。 どっちでもいいけど、男性じゃない*じゃん!

*そういえば、誰かのペットを褒める時など、性別が分からない時はheにするって聞いたことがある。そういう事かな?

にこやかな女性*に小さな紙包みを渡され、お礼を言って〇×ストリートに向かいます。包みの中に入っていたのは、普通のお部屋の鍵と、ICチップのようなものが入っているらしいプラスチックのキーホルダーのようなもの。

*全体的に見た目が移民ぽい皆さんの方がにこやかな確率が高い気がします。それほどの厳しい競争に晒されているのか、異邦人同士の共感のようなものがあるのか、まだ私には分かりませんが。


この時点で概ね21時半過ぎ。既にかなり不安でした。実はそれまでに何度Google Mapを見ても、宿の場所がはっきり分からなかったからです。通りの名前は確認できるのですが、どの建物なのか分からない。

Street Viewを見ても全てオフィスビルのようで、それらしい建物が見当たらないのです。でもとても小さな通りなので、もしかしたらStreet Viewの更新の後に宿が出来た可能性もありますし、近寄らないと分からない程度の小さな看板やプレートが出ているのかもしれません。現地で確認するしかないと思っていました。


見つからない!

で、 〇×ストリートです。バス通りのパブの角を曲がった小さな通り。ひとけのない通りに街灯が幾つか点いていますが、ひととおり歩いても、案の定というか、宿の建物が分からない。これはまずい。日本であれば客を迎える施設には何かしらの表示とか、 建物の入口に明かりがついてるとか、それなりの設えがあるはず。

でも、そこでは路地の全部の建物が真っ暗で電気もついてない。あとは駐車場みたい。 そんなに大きな通りではないのです。建物は全部で15軒ぐらいで、この通りに面した入り口がある建物は10軒も無さそうです。

道を間違ったのかな?と思って何度もバス通りまで戻ったり、行ったり来たりしましたが、 やっぱりここで間違い無さそう。

心臓がドキドキし始めます。多分20~30分ぐらい、宿を管理しているところの問い合わせ先の電話番号を検索しながら、周辺を歩き回りました。で、管理事務所に電話してみたんですよね、確か。でも当然誰も出ません。メールを送ったってこの時間では仕方ない。うーん。これは詰んだかな。

それまでの旅でも、やむを得ず深夜に外を歩く事は何度もありましたが、22時を過ぎてこんなひと気のない暗い通りに、どっからどう見てもアホ面した観光客のアジア人がスーツケースを持ってひとりで立って、長々とスマホの画面を眺めているのは、流石に怖い。危険すぎます。


この宿は諦めて、駅まで一旦戻って仕切りなおそう。駅のインフォメーションはもう閉まってるかな?駅ならまだ人がいてここよりは安全だろうし、どこかに座って、今日これから予約を受けてくれそうな、分かりやすい別のホテルをネットで探そう…と思い始めた頃、駐車場の金網の柵が開いて、ガシャーンと閉まる音がしたのです。誰か人が出てきた!

誰かが歩き去って行ったのを見届けてから、頑丈そうな鉄の柵に恐る恐る近寄ってみました。大きな観音開きの扉は車が出入りするところのようで、チェーンで施錠されているようです。そしてよく見るとその隣に人が出入りするための扉…。

電子キーを扉のあちこちに滑らせてタッチしてみると、ある場所でカチッとロックが解除される音。なにこれ?ドラクエ?脱出ゲーム?

明るくなってから撮影した宿のエントランス。これはポンコツの私じゃなくても難易度高くない?

これで安心だと思ったら大間違い。敵は手強い。

とにかくホッとしました。駐車場にしか見えませんが、鍵が開いたということはここで間違いない。中に入ってみると、駐車エリアを取り囲むようにいくつも建物が建っているのが分かりました。どれもオフィスビルのようにしか見えませんが、右手に進んでみます。

右、右…すぐに行き止まり。建物はいくつかあって、どこも入り口には明かりがついています。Main Buildingってどれよ!?建物の入り口が5ヶ所くらい。どれが正解か分からないので、目についたところに近づいてみます。

1カ所目…どうも違うみたい。2カ所目…3カ所目…あ、ここに電子キーをタッチしろと書いてある!タッチすると扉が開きました。やったね!ダンジョンクリアもかなり近い?!


さて、もう一度メールを見返してみましょう。リフトで2ndフロアに行って…あなたの部屋は21号室です。すぐ横にエレベーターがあったので2ndフロア、つまり3階に上がりました。

エレベーターを降りると正面の壁に部屋の番号の案内が書かれたプレート。21、21、21…

うん。無い。

SNSでフォロワーさんに「部屋が無いよ〜(泣)」と泣きついていた時の画像。

うん、オラだんだんワクワクしてきたぞ(サイヤ人並み)!プレートに書かれていないだけかな?と思ってフロアの廊下を少し歩きまわってみましたが、21の部屋はありません。22とか23とか24はあるのになぁ。

もう少しなのに惜しい!大体さっきから人の気配が全然しないよー。怖いよー。暗いよー。ここでもぐるぐる10分くらい迷っていたと思います。

どうにもならないので、もう一度地上階に降りてみることに。少しあたりを見渡すと、建物全体の案内図がありました!21、21、21…

1stフロアじゃん!メールの嘘つき!

エレベーターで2階に上がり、フロア案内を見ると確かに21号室が存在しています!ついに到着!イエイ!


やっとたどり着いた部屋が意味不明な間取りの3階建て(1階は巨大なキッチンとトイレ、2階に完全にバラバラの部屋でリビング、バス・トイレ、寝室、3階に何となくオバケが出そうな寝室)で、しかも3階に行く階段の電球が切れてて超怖かったとか、ドライヤーと栓抜きがなくて不便だったとか、買ってきたPod Noodle (Chicken and Mushroom)が口に合わなくて全部食べられなかったとか、そんな事はもう良いのです。この部屋にたどり着いたというプレシャス!どれだけホッとした事か!

しかしこの旅はこの後もドキドキ体験が目白押し。いや~旅って本当に良いものですね!(白目)



投稿者: sakura_beta

生まれも育ちもずっと札幌、100%ピュアな札幌民。 2016年5月3日、突然イギリス人ミュージシャンのポール・ドレイパーさんを発見して、完全にハマり、ポールさんがツアーをするたびにイギリスまで見に行っています。 好きな食べ物はビールですが最近は1杯でも飲むと次の日に響きます。テレビは全然見ない。大体いつもひとりで行動します。ポールさん以外の音楽をほとんど聞かないので、洋楽の話をされても分かりません。 たまにイギリスに行くため、やむを得ず英語の勉強をしていますが、この間イギリス人に「Your English is so very terrible.」といわれました。soとveryって一緒に使ってもいいんですね!どうもありがとう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA