#TOEIC公式みんなで模擬受験 | 英語教育界やら翻訳などなど


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もしかして天才かな

2020年6月28日、YouTubeを使ったTOEICの公開無料模試が行われました。コロナウィルスの感染拡大で数ヶ月にわたってTOEIC試験が中止されているため、受験者のモチベーション維持のために開催されたようです。TOEICを受けようなどそれまで考えてもいなかったのですが、英語力の向上を目指す身として、実力試し(&タダだし)と思い立ち、リアルタイムで受験してみました。(2020年8月31日まで受験が可能だそうです。2020年9月30日まで延長されたそうです。)

私のTOEIC経験は確か25年ほど前。1、2回受けて、最高スコアは600。内容が色々変わっていると何かで読んでいたので、今回は模試の前日夜にTOEICのサイトに行って、リスニングの問題形式だけチェックしました。

そういうわけで準備ゼロで挑んだ模試。結論から言うと、参考スコアが825〜865!リスニングが88/100、リーディングが83/100です。 我ながらよく頑張りました。リーディングの最中に眠くなって一瞬気を失ったり、面倒になって続きはまた今度にしようかな(そして「また今度」は絶対に来ない)という心の悪魔のささやきも何度もありましたが、何とか我慢して制限時間ギリギリに最後の問題までたどり着きました。

単語を増やす地道な努力はゼロ、文法の勉強もほとんどせず、英語のビジネス文書なんて見たこともありません。ただひたすら英語のPodcastを聞いていただけ。リーディングは「なんとなく違和感ないのはこれ?」というノリで解答しております。なぜその解答を選んだのかと聞かれても雰囲気、としか言いようがない。聞いた事あるけど意味ははっきりとは知らない単語だらけだし。 もしかして私、超能力者英語の天才なのでは?


まだまだ甘いぞ愚か者め

と、大変機嫌が良くなった翌日、ランカシャー出身者とリヴァプール出身者(はーと)による1時間に渡るインタビュー動画を意気揚々と見たのです。そして一瞬で自分の実力のほどを思い知らされました。多分半分ぐらいしか聞き取れてない。英語の道は本当に長いなー。


TOEICのリスニング問題は4、5カ国の英語(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア(&ニュージーランド?))のアクセントがミックスして出題されているんだそうです。かなり平準化というか、ソフィスティケートされたアクセントで、私が普段聞いているイギリスのRPやBBC英語に近く、全体に違和感無くとても聞きやすい印象でした。

しかし英語の現実はそう甘くない。 周囲の雑音、話し手の語彙の多彩さ・声の大きさ・ 滑舌に加え、当然のことながらアクセントになじみが無いほど聞き取りにくい。リヴァプールやマンチェスター、コックニー、エスチュアリーのアクセント、オーストラリアのアクセントなどは聞き流している分には大好きなのですが、 特にリヴァプール、マンチェスターは内容がさっぱり把握できないので、もしそのアクセントの人と会話する機会があったら、きっと話は全然通じないのにただニヤニヤしている人になる。うん、日本人相手でも大体普段からそういう感じだけどね。


英語のアクセントで炎上騒ぎ

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英語のアクセントといえば、6月初旬に有名YouTuberの英語の先生が、自身の動画が原因で謝罪に追い込まれるという出来事がありました。私が騒動を知ったのはすでに炎上してしまったご本人の謝罪動画が出た後で、元の動画は見ていません。

ことの発端は、有名YouTuber先生(RPアクセントで話すイギリス人)が「プロフェッショナル*だと思われたかったら避けたい10の単語の発音」という内容の動画をアップして、それが有名なニュースサイトにも掲載されたことだったようです。

*ここでいう ‘プロフェッショナル’ とは知的な職業についている専門家、というニュアンスのようです。その後の展開から察するに、元の動画の内容はRPアクセントでこの単語を言うと賢そうに見られるよ、という内容だったものと思われます。

これに対して「それじゃ俺は永遠にスタートラインにも立てないわ~」「イギリスのRPだけが ‘知的’ だといいたいの?」など、英語教育に係わる人たちを中心に多くの異議が寄せられた*模様。中でもオーストラリア人の有名YouTuber先生が、英語教育業界に蔓延する「病」について自らの見解を示した動画は、私にとって非常に興味深いものでした。

*ちなみにその後すぐに発端となった英国人先生が謝罪の動画を公開して元の動画を削除したので、騒動自体はすぐに鎮静化したものと思われます。


オーストラリア人先生の動画で私の理解できた概要は以下のとおりです。(私が変な解釈しているようでしたらご指摘ください。なんせ私の英語力…)

・人間は概ね生後10ヶ月から、自分の周りの音を聞いて同じような音を発し始め、その他の不要な音を排除するという研究があり、これは大人になってからアクセントを変える事が非常に難しいことを意味している。

・あるアクセントが他のアクセントより知的で高等教育を受けておりプロフェッショナルであるという根拠は無い。

・しかしこういった ‘スタンダード・イングリッシュ’ や ‘ネイティブ・スピーカー’ に対するこだわりという事象は何百年も前から続いていて、これは今回の騒動の原因になった動画だけではなく、英語教育産業全体が抱えてきた問題である。「特定の場所」で生まれたというだけで、資格も経験もない教師がありがたがられ、その一方で熱心で専門知識を持った教師がアクセントのために排除されてきた。

・2013年のイギリスのオンライン調査によると、回答者のうち37%がリヴァプール・アクセントを「知的でないと感じる」と回答しており、たいていの場合、女性がよりそのような偏見の被害にあいやすい。 一方で ‘スタンダード・イングリッシュ’ を話す ‘男性’ は良い職業に就く確率が高い。

・英語は誰のものでもない世界言語。言葉はそれを使う個人に属するものであって、社会的に平等なものである。

・コミュニケーションを成功させるために、ある特定のアクセントを身につける必要は無い。

・言語の習得はとても難しいこと。それを成し遂げるには非常に長い時間がかかる。語学教育についてのノウハウも専門の知識もないにもかかわらず、ネイティブ並みになれるなどと不可能な事を謳う英語教師に時間とお金を無駄に使わないで欲しい。教師の出身地で英語教師を選ぶのは大きな誤りである。教育者としての能力で教師を選ぶべき。英語を学ぶ皆さんが正しい選択をする事が、この業界を変えていく重要な力になる。

・私達は生まれたところや皮膚の色、財産や職業で人を判断することが許されないことを知っている。いつの日か、アクセントで人を判断する事が同じように不快なことであるという認識が常識になるように願っている。

Prejudice in the ELT industry | Why we need change

他の動画を見ると、どうやらこのオーストラリアの先生は普段から英語教育界に疑問を投げかけているようで、今回の騒動はこの先生が問題視している現状を「ほらね」といってみせるのに好都合な案件だったとも言えます。

やや理論に飛躍があるようにも思うし、この主張に全て同意するかどうかは別にして、私が知っている有名な英語学習系のPodcasterやYouTuberは言われてみるとみんなアメリカ人かイギリス人かオーストラリア人だなと。 イギリスの主要な産業は「金融」ですが、実は「教育」もかなり大きな外貨獲得手段だと聞いたことはあります。 イギリス英語のある種のアクセントをステータスだと思う層が一定数いるということだとは思います。

一方Ph.Dを持っていてネイティブですら難関といわれる国際的な英語教育資格を持っているにも係わらず、あまり人気のない非ネイティブの先生というのもYoutubeやPodcast界隈でたまに見かけます。

考えてみると凄いことなんですけどね。 例えば日本生まれ日本育ちの人が韓国ネイティブの先生と肩を並べるぐらいの韓国語の先生になるようなものです。そういう先生はもちろん無資格のネイティブの韓国人よりも韓国語を教えるのが上手いに違いない。


私自身確かに無意識のうちにRPとかネイティブにこだわってるところがあって、その結果現実的な英語への適応が遅れてるのかもなと気づかされました。RPは聞き取りやすいんだけど、そりゃRPばっかり聞いてるからだろうね、っていう。例えばアメリカ人にはすごく聞き取りにくいらしいですねイギリス英語(下記日本語がペラペラのアメリカ人がイギリス英語がどういう風に聴こえるか日本語で表現した動画です。とても面白かった)。


実際ロンドンに行ったらアフリカ系、インド・パキスタン系、イスラム系とか中国系とか、世界中にルーツがありそうな方が大量にいるし、英語の癖も本当に様々です。RPとかBBC英語ばっかり聞いてる場合じゃない。今世界で一番英語を話している人口が多いのは中国人だというし。

というわけで、この動画を見てから今までよりかなり意識して色んな英語を聞くようにしているし、今まで避けていた日本人の英語お勉強系YouTuberの動画なんかも見るようになりました。ここ1年半ほどで少しはリスニングが上達したと思うので、次のフェーズに進むよいきっかけになったと思います。


映画「風と共に去りぬ」のお手伝いさんの「〇〇ですだ」字幕問題

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そんなタイミングで、この記事を読んでしまったのですよね。昨今のポリコレ系の話は無教養な私としては何を読んでも「なるほどなぁ」と「そうかなぁ」の間を行ったり来たりしていて、正直何にもいえないんですが…。

マイ・フェア・レディなんて物語は今後存在することすら許されなくなっちゃうんでしょうか。イギリス人の中にリヴァプール・アクセントを「知的でないと感じる」 人が居るのが事実だとして、例えばリヴァプール・アクセントに対する偏見を描いた物語なんかがあったとしたら、翻訳する時にどういう風に扱うのが良いんでしょうか。

例えばハリウッド映画に日本語訛りの英語を話す日本人が登場するとします。(すでに沢山登場してますよね。)もしその人のセリフを日本語に翻訳するとして、「オラ、〇〇だ」「〇〇でごわす」「〇〇じゃけぇ」という風に表現されて、それを不快だと思うとしたら、その「不快感」はどこから来るんでしょうか。

The Lord of the Ringsの映画も英語が分かる人が見るとキャラクターのアクセントが全部違ってて、それが良くも悪くも物語に深みを与えているそうなのですが、そこまで翻訳するというのはやっぱり不可能なのかなぁ。これはLuke’s English Podcastでも取り上げられていたトピックスですね。

上記記事の最後にある「さて、日本語訳『風と共に去りぬ』の中で、誰が誰を差別しているでしょう。 」ってひと言を思いだしては反芻している今日この頃ではあります。