とあるイギリスのミュージシャンファンの「レコード・ストア・デイ」雑感

みんな、欲しいものは欲しいと声を上げようもっと!問い合わせをガンガンするのですもっともっと!


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レコードストアデイというイベントがあります。Wikipediaによると「独立系レコードショップの文化を讃える日」ということで、 2008年にアメリカで始まり、その後ヨーロッパにも広がったらしい。 今やこの日はレコードファン、アーティスト、レコード店が一丸となってのお祭りとなっています。

地域に根付いている小さなレコードショップを支援するため、 アーティストやレーベルはこのイベント限定で店頭でないと入手が出来ないレコードをリリースして参加レコード店に卸します。 ネットでイギリスの状況を見ていると、レアなレコードを入手するため、前日夜や当日早朝から店頭に並ぶレコードファンも少なくない様子です*。

*そのため転売屋が暗躍して、ebayなどは価格高騰で大変なことになっていて、イベント自体が転売を生んでいるとして批判を浴びていたりするけどそれはまた別のお話。

私がレコードストアデイの存在を知ったのはここ4年ほどの事。イギリスで発売される限定レコードの中に目当てのアーティストのものがあることを知り、どうやったら入手できるのか?と思い調べた結果です。


resident musicは素敵なお店

何も知らない私はまず、イギリスのresident musicに問い合わせのメールを入れました。一度そのお店から取り寄せした事があったんですよね。その時商品と一緒に入っていた納品書を何気なく見たら、ボールペンで小さくThank You! と手書きのメッセージが書いてあって、とても嬉しくて、いいお店だなと思っていたのです。ちょっとした事なんだけど、なかなか出来ないことだなと。もしかしたら日本からの注文が珍しかったのかな。

で、追っかけでその街に行った時に実際にお店に立ち寄ってみたのです。想像していた以上に良いお店でした。車が入れない狭い路地の中にあって、明るくて、オシャレで可愛くて、でも適度に入りやすくて。ぶらぶら店内を見ていたらなんだか聞き覚えのある曲が流れてきて…なんだっけこの曲?

しばらく考えてようやく思い当たりました。宮沢賢治が作詞作曲した「星めぐりの歌」だ!♪あかーいめだまのさーそりーってやつです。まさかイギリスの地方のレコードショップで宮沢賢治を聞くとは。海外で突然耳に飛び込んできた懐かしいメロディはインパクト大でした。思わずレコードショップのオリジナルグッズ買っちゃうくらい。


2018年のレコードストアデイ

そんなこんなで、とにかく良いお店だと思っていたので、思い切ってメールで問い合わせをしてみたのです。2018年の事です。日本に住んでるんですけどレコードストアデイ限定のMansunのWide Open Space 12″がどおおおおおしても欲しいいいいいんです、取り寄せ可能ですか?と。すぐに丁寧な返信がありました。

レコードストアデイの限定レコードは予約不可、とり置き不可、店頭販売に限られていること。店頭販売後に残った商品についてのみ、1週間後の現地時間0時にオンライン販売が許可されること。自分達の店での取り扱いがどうなるかは売れ行き次第だから今は何ともいえないけれど、 Kscope(現在Mansun作品の版権を持っているレコード会社)の商品を取り扱っている良い店がいくつかあるよと、なんと他のレコード店のオンラインショップurlまでいくつか教えてくれたのです。

Google翻訳を通してのやりとりですが、とても親切な事は私でも分かる!感動してしまったので、お礼と共に、実は店舗を訪れたことがあること、宮沢賢治が流れてびっくりしたことなどを書いて送ると、60年代~70年代の日本のフォークが大好きなスタッフがいてね~岡林信康が~などとまたノリノリの返信で、次に店に来た時には絶対声かけてね!と、とことんフレンドリー。そしてなんと解禁の半日ほど前にわざわざ「うちでもオンラインでMansunが販売出来そう!頑張ってゲットして!」と知らせてくれ、無事に入手することが出来たのでした。なんて良いお店!


2019年のレコードストアデイ

そして翌年2019年。またやってきましたレコードストアデイ。今年はMansunの名曲LEGACYの12″です。入手できるか出来ないか不安なので嬉しいような、もうやめて欲しいような複雑な気持ち。。。首都圏に住んでいる方などの様子を見ても、昨年は日本のレコード店でMansunの限定版を取り扱った気配はなさそうでした(確証はない)。ただ、Mansunのリイシュー版を出しているKscopeが日本のPR会社や独立系レコード会社と提携を結んだ様子があり、状況は少し変わっています。もしかしたら2019年の限定品は日本でも流通するのでは?というわずかな期待がありました。しかしネットで見る範囲では何も情報がありません。果たして日本での流通はあるのか?

期待も込めて日本国内で「レコードストアデイ参加店、オンラインショップを持っている大きめの独立系レコード店」に問い合わせのメールを入れてみました。1軒目、返信無し。2軒目、返信無し。3軒目、返信無し・・・と思っていたらとあるショップから日程ギリギリになって「入荷は未定です*」というクソみたいな有益な情報が2行ぐらいの短いメールで返ってきました。

*入荷しないならしないと言って欲しいし、この返信だと調べたのか調べてないのかも不明。返信しないのと同じどころか、むしろマイナスなのでは?いや、でもやっぱり無視よりはマシか・・・?

結局日本国内で取り扱いがあるのかどうかは不明。当日大手のレコードチェーン店に行ってみましたが、取り扱いは無く、ネットで他のファンの方の様子を見ていても店頭に出ている様子はありません。よーしイギリスからオンラインで取り寄せだ!

という訳で、解禁時間にresident musicのサイトで待ち構えておりましたが、スタートしてすぐにショップがダウン、次につながった時には売り切れていました(泣)。しかし前年にresident musicのスタッフの方に教えて貰った他のショップでトライして何とか購入することに成功*したのです。

*その後「パッケージのビニール部分が破損して納品された。このまますぐ送る事も出来るし、新しいパッケージが届いてから送る事も出来るけどどうする?」と連絡が来て、結局届いたのは6月になったのでした。でも入手できただけで大満足!イギリス国外に住んでいる場合は、どうせ当日のお祭り(お目当ての商品が買えた!というファンの報告で当日のFacebookやTwitterはお祭り状態になります)には乗れないんだし。


2020年のレコードストアデイ

そして2020年です。コロナの影響で何度か開催が延期され、最終的に特例だらけの開催になった2020年。レコード店に人が来て欲しい、でも沢山押し寄せたら困るというジレンマの中、1)限定版の販売を3日程に分ける。2)オンラインでの販売を当日夕方から(日本では午後から)認める、という特別ルールが設けられました。

そして2020年のレコードストアデイ、Mansunはかねてからその存在が知られていたのに実際にはリリースされなかった幻のアルバム「The Dead Flowers Reject」を出すと発表されていたのです。これは競争が激しい。そして今年は日本の販売元からプレスリリースが出ていたので、日本国内での流通もありそうな雰囲気。しかしいくら検索してもネット上にプレスリリース以外の情報が出てこない。うーん。

ギリギリまで情報を捜し求めていましたが、あまりにも何も無いので、発売日の1週間ほど前にリリースの配信元に問い合わせのメールを入れてみました。するとメールを転送してくれたらしく、レコードの販売元の担当の方から丁寧なメールが返って来たのです。

曰く、Mansunの今回の限定アルバムについては日本国内のレコードショップ店頭/オンライン販売の予定は無いが、入手希望なら本国に問い合わせて、在庫があれば私が住んでいる街の大手レコード店に納品するよう取り計らう、とのこと。とても親切です!

しかし自分の入手だけなら例年通りイギリスから取り寄せれば済む事。私ひとりの為にお手を煩わせるのは申し訳ないので、その方を通じての取り寄せは遠慮して、全国に欲しがっているファンが少なくとも何人かは居るのです、という旨をお伝えたところ、レコード店の店頭で言ってくれれば自分の所に問い合わせが来る事になっているので、まとめてイギリスに在庫を確認して、在庫があれば取り寄せをする、という事でした。

そんな経緯を他のファンの方にもお伝えして迎えた当日。ある方が某レコード店を訪れ、店頭でMansunのレコードについて問い合わせをしてみたそうです。レコード店の店員の答えは「ありません」だったとの事。事情を説明して販売元に問い合わせて欲しいとお願いしたけど、動いてくれなかったそうです。

今年も国内での入手は無理なのか・・・と諦めかけた解禁時間(日本時間1時)。大手レコード店のオンラインストアでなんと予約が開始されました!ありがたく、大急ぎで予約を入れました。もしかしたらメールをやり取りしていた販売元の担当の方が手を回してくれたのかもしれません。ありがたい!しかし発売から1ヶ月以上。毎日悶々としながら待ち構えていたところに飛び込んできたメールは無情にも「取り寄せ期間終了のため、勝手ながらキャンセルさせていただきます」。ああ…。

Twitterを見ている限り、入手出来た日本人は見かけませんでした。恐らく全キャンセル。この時は慌ててイギリスのショップから探し出して何とか購入出来ましたが、数が限定されているので、完売になっていた可能性も充分あります。購入のチャンスを完全に逸する可能性もあった訳です。 イギリス側の対応が悪かったのかもしれないし、どういういきさつがあったのかは想像するしかありませんが、少なくとも絶対に入手したい時にはこのルートはあてにできないと判断せざるを得ません。


一方で、ファンとしては出来れば日本での販売実績を作りたいのです。日本のファンでもそれなりに買う人がいると分かれば、取り扱いしてくれる店も出てくるはずです。そうなれば買う予定が無かったのに「あ、コレも出てるんだ。買ってみようかな」と思う人も出てくる可能性があります。

買いやすい環境があれば買いたい、でも海外から取り寄せまではしたくない…というファンは潜在的に相当数いると思っています。日本のファンに商品を届けたいアーティスト/販売側と、もう少し買い易ければ欲しいのにと思っているファンを結びつけることが出来れば、もっとみんな幸せになれるはず。この一連の動きこの先の状況改善に繋がる事を願ってやみません。


とにかく最終的に何が言いたいかっていうと、わずか4年間(4回)のレコードストアデイ経験ですが、それほど有名じゃない洋楽アーティストの商品については、イギリスのレコードショップ>>>日本の流通元>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>日本のレコードショップの順に熱意があるんだなということです。


思い起こせば思い当たるエピソードは他にもあります。ロンドンの某有名レコード店の店員さんに、ほぼ入手困難であろうレコードの事を聞いた時。私のたどたどしい英語にもにこやかに応対して「うーん、多分それはもう在庫ないんじゃないかと思うけど・・・ちょっと待ってね、探してみるから」とワザワザ手を止めてPCと実際の棚で商品を探してくれ、やはりものが無くて「ごめんね、無いみたい。うちに無いって事は多分ほかでも難しいと思うよ。」という、本当に優しい対応です。

一方、日本の大手レコード店。ある時オンラインで「え?この商品日本にも入ってるの?」と思うようなレコードを見つけ、半信半疑で予約をして店頭引取りにしたところ、店頭に届いていたのはなんとCD。CDではなくレコードをオーダーしたつもりだったのですがと予約履歴を見せながら申し出ると、色々調べて、オンラインショップの登録カテゴリが間違っていたとの事。特に謝罪の様子もなく(彼にしてみればオンラインショップの登録が間違ってたのは自分のせいではないってことなのでしょう)再度取り寄せますかーと。お願いしますというと、ネットを検索して「あー、Amazonに在庫があるみたいなので、こっちの方が多分早いですね~」。親切といえば親切ではあります。でも多分面倒なんだろうなと思い、結局キャンセルしてしまいました。


自分も客商売(直接客前に立つことは無いにしろ)なので本当に色々考えさせられます。多分これはレコード店だけの問題じゃないんだろうな。日本のレコードショップはもっと頑張ってといいたい気持ちもありますが、買い手の熱意の問題でもあるのかなと。

みんな、欲しいものは欲しいと声を上げようもっと!問い合わせをガンガンするのですもっともっと!


あと、 もうひとつ言いたいのは海外から買い物をするのを怖がっている人が結構居るんですが、案外というか、みんなかなり親切だよ!(場合によっては日本よりも)という事です。 私も海外通販は日本よりは若干の緊張感が漂うんですけど、でも今のところ嫌な思いをした事はほとんど無いし*、間違って購入してカード切ってからキャンセルしたりした事もありますが、要点と希望を伝えれば(翻訳サイト大活躍)特に問題は発生しませんでした。運が良かったのかもしれませんが・・・。

*もちろんゼロではありません。電車の中や電車に関する問い合わせ(電車ばっかりやん)で「お?やんのかイギリス人?日英開戦するか?こっちは日本から来た忍者だぞ?(嘘)」といいたくなるようなお方にも2度ほど遭遇したことはあります。